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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)218号 判決

一 請求の原因一ないし三は当事者間に争いがない。

二 雑賀和男(東洋精米機の経営者、原告の実兄)が昭和三六年三月二〇日に開催した発表会において発表されたAA―1型、A―1型の石抜選穀機(出品機)の構成、効果が成立に争いのない甲第九号証(トーヨー石抜選穀機説明書)及び甲第七号証(株式会社新農林社発行の昭和三六年三月二一日付農機具新聞第三六七号)中の「新機軸の選穀方法トーヨー石抜機」との見出部分についての説明記事に記載されていることは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第一二、第一三号証によれば、発表会は、東洋精米機が「三年来ホコリの出ない静かな場所の取らないオートメーシヨン精米機」として試作研究してきた石抜選穀機が完成し量産化に移行し近く発売の運びになつたとして、その発売に先立ちその説明と宣伝のため、昭和三六年三月二〇日、二一日の両日全国より食糧加工機関係販売店及び精米業者ら五〇余名の参加を得て開催されたもので、席上主催者側による出品機についての説明と選穀実演、出席者との間の質疑応答が交わされたことが認められる。

そこで、以下に出品機と本件発明及び別件出願を対比検討する(出品機の構成、効果についての記載内容は甲第七号証と甲第九号証においてその技術的内容が特に異なるとは認められないので、右の対比は甲第九号証によることとする。)。

三 前掲甲第九号証によれば、出品機に関し同号証中特許出願中としている記載は、本機は従来の如く風力のみに頼る撰穀方法でなく慣性の法則を応用して落下時の速度差及び振動の角度を利用した撰穀方法の発明(特許出願中)に依る点、従来の石抜機と異なり撰穀機と本体(従来機の風車カバーに当る)が一体となつて動くから(特許出願中)騒音が無く、家庭用の電気洗濯機より静かである点であり、このほか出品機が従来の石抜機と異なる点としての記載は、機械部分は従来の約一〇分の一の大きさで構造も簡単である点、したがつて今までより低いコストで生産できる点であることが認められる(以下、記載という。)。

右の記載中の「撰穀機」の意義について検討すると、成立に争いのない甲第二号証(本件特許公報)、後記甲第八号証の三(別件出願明細書の控)によると、本件特許出願当時、米その他の穀類中に混入する小石、土、金属片等を選別排除する選穀機は、凹凸多孔の選別板とこれを載置し風車を内蔵する載置筐(風車カバー、本体とも称せられる。)により形成されていたものであることが認められるから、の記載全体からみて「撰穀機」は「選別板」を意味するものと解することができる。原告は右の「撰穀機」は「本体」と「選別板」とを合わせた全体を意味するものである旨主張するが、そうであるとすると「撰穀機と本体が一体となつて動く」との文言の意味を把握することができない。の記載の右部分を「選別板と本体が一体として形成され、両者が一体となつて動くから騒音が無い」との意味に解すれば、記載は、従来の選穀機では選別板と本体が別体であり別個に駆動していたから摺動音が生じたが、出品機ではこの両者を一体のものとして形成し駆動させているから摺動音が生じないとの趣旨を示したものと合理的に理解することができる。

原告は、出品機では選別板と載置筐が一体として形成されてはおらず、選別板が載置筐の上面に固着することなく着脱自在に置かれ、両者は別体駆動する構成である旨主張する。しかし、選別板と載置筐が固着関係にあるか着脱自在の関係にあるかということと、両者が一体として形成され駆動することとは直接関係のないことであり、着脱自在の関係にあつて一体形成、一体駆動という構成は可能である。そして、記載(原告主張の特徴<3>)が選別板と載置筐が別体形成、別体駆動の関係にあることを意味するものと解することはできないから、原告の右主張は採用できない。

四 本件発明の特許請求の範囲に記載された構成が選別多孔板とこれを載着した載置筐とを一体に形成し、両者を同時に選別多孔板の傾斜角度より大きい角度をもつて斜方向に往復運動せしめ、載置筐内に位置させた風車は上記運動と関係なく定位置にて旋廻するように成した選穀機における選別板及び截置筐一体駆動装置であることは当事者間に争いがない。

前掲甲第二号証(本件特許公報)によれば、本件特許公報の発明の詳細な説明の項には、

1(一) 在来の選穀機にあつては載置筐の上に凹凸多孔の大幅の選別板を乗せ、該板のみを左右に往復運動させ下方より風車にて送風し、その風力にて穀物を浮上らせ傾斜した低部より異物を排出させる方法が採られた(一頁左欄一二行ないし一六行)。

(二) (在来の選穀機にあつては)選別板と載置筐とが別個に構成されて居り、選別板は載置筐の上面に沿つて急速に摺動するからその間に甚しく騒音が発生し周囲に不快を与え他の作業に支障を齎す虞があつた(一頁左欄二四行ないし二八行)。

(三) (在来の選穀機にあつては)選別板を左右方向に移動させる為機構が大型かつ複雑となり価格が高くその上に据置に広い場所を要した(一頁左欄二八行ないし三〇行)。

(四) 本発明は叙上の欠点を除去し選別板と載置筐を一体に形成し両者を一緒に駆動する事によつて騒音の発生をなくし、風力は選別作用に補助的に用いるだけとし……選別板を斜方向に上下させる事によつて密閉式の小型機構を可能となし、もつて安価にして有効な装置を得ることを目的とするものである(一頁左欄三一行ないし三七行)。

2(一) 該筐(載置筐)と一体をなした選別板2も斜上下方向へ急激に往復する。……この運動によつて働く慣性の法則と風車による下方よりの送風と相俟つて比較的に比重の小なる穀物のみが溢流堤を越えて排出口7より排出され、比重の大きい小石、金属片等は選別板上に残存する。よつて定期的に該板を取外しこれ等異物を排棄するのである(一頁右欄一五行ないし二三行)。

(二) 本装置にては異物の選別作用は主として選別板の斜上下運動によつて行われてるのであつて、風車は補助的な作用をするのみであるから在来のように風力を調節する必要が無く(一頁右欄三三行ないし三六行)、

(三) (本件発明の装置は)全機構をケースに密閉した上選別板2と載置筐1とは一体と成つて駆動されるから在来のように選別板が截置筐の上面を摺動する時に起る騒音の発生が防止される(一頁右欄末行ないし二頁左欄三行)。

(四) 選別板2と載置筐1が一体となつて斜上下に運動するように成したから機構を可及的に簡素にかつ小型に構成でき故障の発生少なく製作費を低廉ならしめ、据置に広い場所を要せず使用法簡便にして作業能率を増進させる効果がある(二頁左欄四行ないし八行)。

との記載があることが認められる。

五 前記三及び四の事実に基づき、本件発明と出品機を対比する。

1 前記四、1(一)(四)、2(一)(二)によれば、従来の選穀機は風車による風力のみで選穀をしていたが、本件発明では載置筐と一体をなした選別板を斜上下方向へ急激に往復運動させ、この運動によつて働く慣性の作用と風車の風力による補助的作用により選穀をするもので、駆動機構の具体的手段について、前掲甲第二号証によれば、偏心輪3の回転で作動杵4を介して下端を枢着した支軸5を押し引きする作用により、選別板に対して慣性を伴う斜上下方向への急激にして不等速な往復運動を与えるものであることが認められる。

この事実によれば、本件発明は、特許出願中とされている出品機に関する記載の特徴を有するものと認めることができる。

なお、右記載には「落下時の速度差」という文言があるが、前掲甲第二号証、第八号証の三によれば、選穀機においては、異物混入の穀物が漏斗から適量ずつ選別板上に落下させられ、選別板がその作動によつて落下物から異物と穀物を選別するものであることが認められるから、選別のための速度差が必要なのは選別板の作動についてであつて、異物混入の穀物が落下すること自体に速度差が求められるわけではない。したがつて、右文言中の「落下時」とは特に技術的意義を有しない記載というべきである。

2 前記四、1、2によれば、従来の選穀機は選別板と載置筐が別個に形成され、選別板が駆動するため両者の摺動音により甚しい騒音が発生していたが、本件発明では両者は一体に形成され、一緒に駆動するため右のような騒音が発生しないことが認められる。

この事実によれば、本件発明は特許出願中とされている出品機に関する記載の特徴を有するものということができる。原告は、選穀板と載置筐が出品機では着脱自在の関係にあり、本件発明では固着関係にあると主張するが、前記三で述べたように両者の載置態様がそのいずれであつても両者を一体形成し、一体駆動させることは可能であると認められるから、出品機と本件発明における両者の形成、駆動関係を対比すれば足り、載置態様まで対比する必要はないものというべきである。

3 前記四1(四)、2(四)によれば、本件発明は、出品機が従来の石抜機と異なる点としている記載の特徴をも有するものと認めることができる。

4 次に、前掲甲第七、第九号証によれば、出品機においても風車が本件発明同様補助的機能を有するものとして本体内に設置されていることが認められるが、出品機が本件発明の風車に関する四の構成を有するか否かは右甲第七、第九号証によるも必ずしも明らかではない。

しかし、前掲甲第二号証によれば、本件発明では風車について前記のような構成を採ることによつて選別作用に対する補助的機能を営なませているものと認めることができる。他方、前掲甲第九号証の記載によれば、出品機も本件発明同様従来の風力のみに頼る選穀機を改良したものということができるから、出品機が本件発明における他の及びの構成を備える以上の構成をも備えているものと推認することができる。

六 次に、別件出願の構成について検討するに、後日に作成されたことを認めるに足りる証拠がないので、その方式及び趣旨により別件出願明細書の控であると推認すべき甲第八号証の三によれば、別件出願は、昭和三六年三月二八日、「比重撰穀機に於ける被撰別物の浮上方法」の名称で特許出願されたものであることが認められる。そして、右証拠によれば、その明細書の発明の詳細な説明の項には、「撰別板(B)を本体(5)の上部開口部上縁に耳(22)(23)が載るかつこうで着脱自在に置かれて居り、」(三丁表七行ないし八行)、「本体(5)が風車軸(4)を中心として小さく往復運動をする。」(同一八行ないし一九行)、「撰別板(B)の動きは、撰別板(B)のゴム片(26)(27)が本体(5)上部の前後内寸とゆとりがあり、更にゴム片(26)と(27)の硬軟の差によつて、ゆとりの巾を前行きは早く、後行きは遅く速度差が出て往復運動をする」(三丁裏八行ないし一二行)との記載があることが認められる。

この事実によれば、別件出願の「撰別板」と本体は別体に構成され別体に駆動しているものであることが認められる。もつとも、前掲甲第八号証の三には、「本来(5)は撰穀機(A)の一部を形成しているから、従つて本体(5)は撰穀機(A)と共に一体となつて動く。」との記載があるが、右認定の各記載との関連が明らかではなく、両者の駆動による騒音の発生、その防止に関する記載は見出せないから、この記載は右認定を妨げるものではない。したがつて、別件出願は、特許出願中とされている出品機に関する記載の特徴を備えていないものというべきである。

七 前掲甲第九号証及び第七号証が、明細書のように出品機たる選穀機についてその技術的内容を専門的に説明した文書とは異なり、宣伝用文書であることからみて、技術的見地から出品機の構成、効果をもれなく記載しているとはいいがたいとしても、宣伝用文書であるが故にかえつてその主要な特徴と認められる構成、効果はすべて記載しているものと認めて差支えないものというべきである。そして、前記五に認定したように、本件発明が甲第九号証により特許出願中とされている構成(記載の前半部分)を備え、これに伴う効果(記載の後半部分、)を有するのであり、このことに加えて次の事実を総合すれば、出品機は本件発明の構成を具備しているものと認めることができる。

成立に争いのない甲第三号証の一、第五号証の三ないし五、第一四ないし第一七号証によれば、<1>被告が原告に対し、昭和三八年五月二二日付書面(甲第三号証の一)により、「出品機の選別板の駆動装置が同月六日に公告された本件発明の要旨と全く同一であると断定される。」旨指摘したのに対し、原告が被告に対し、同年六月七日付書面(甲第一六号証)により、「本件発明は発明者である原告の意に反し昭和三六年三月二〇日に東洋精米機(実兄和男を指す。)により発表会において発表されたが、原告は右発表から六か月以内である同年五月三一日本件発明につき特許出願したから、特許法三〇条二項により右出願は新規性を失わない。」旨回答し、<2>丸七が原告に対し同年一一月一二日付書面(甲第五号証の三)により、「原告自身が発表会において本件発明に係る選穀機の説明をしているから本件発明の特許出願については特許法三〇条二項の適用はなく新規性を喪失している。」旨申入れたのに対し、原告は同年一二月二日付書面(甲第一五号証)により、「東洋精米機を経営していた実兄和男が発明者である原告の意思に反し本件発明を公けにしたもので、原告は同人の強制により発表会に出席したが、出品された選穀機の説明はしていない。」旨述べて、本件発明の特許出願について特許法三〇条二項の新規性喪失の例外を主張し、<3>丸七が株式会社東洋製米機製作所(代表者雑賀和男)に対し同年一一月一四日付書面(甲第五号証の五)により、「本件発明が東洋精米機によりその実施品(出品機)が発表、販売されたことによつて新規性を喪失し特許を受けることができない。」旨申入れたのに対し、同社が丸七に対し同年一二月二日付書面(甲第一七号証)により、「本件発明につき発明者の意思に反して特許出願以前に発表会において発表したが、前記甲第一五号証のとおり、本件発明は新規性を喪失しない。」旨回答し、<4>丸七が原告代理人弁理士外岡孝男に対し同年一一月三〇日付書面(甲第五号証の四)により、「別件出願である実公昭三八―一三九五号考案も出願前公知であつた。」との申入れに関連し、原告が丸七に対し同年一二月三一日付書面(甲第一四号証)により、「発表会に出品したAA―1型、A―1型の構造は本件特許公報の図面に示すとおりである。」旨主張していることが認められる。

この事実によれば、原告は、本件特許が公告された後、被告及び丸七から、本件発明がその特許出願前に公知であつたとの指摘を受けたのに対し、そのこと自体は認めたうえで、右出願につき特許法三〇条二項の新規性喪失に関する例外規定の適用されることを主張し、また、発表会を主催した雑賀和男も同じ見解を主張していたものということができる。この事実は、本件発明と出品機が同一の構成を有することを裏付けるものというべきである。

原告は、甲第一四号証に「この型のもの(出品機を指す。)は選別板と載置筐に着脱自在に取付けられている。」と記載されていることを理由に出品機と右両者が一体に形成されている本件発明の同一性を否定するが、右両者が一体に形成されることと着脱自在の関係にあることとは直接関係のないことであることは既に述べたとおりであるから、右の主張は理由がない。また、同号証は、実公昭三八―一三九五〇号考案の出願前公知性を否定することを主たる内容とするものではあるが、それに関連して前記のように、同号証中に出品機と本件発明の同一性を認める記載があるのであるから、原告主張のように同号証が本件発明と無関係のものであるということはできない。また、甲第一五ないし第一七号証が原告が出品機と本件発明の同一性を認めたことにならないとの原告の主張は、右各書証の記載内容に照らし到底肯認しがたく、採用することができない。更に、原告は、本件発明の試作品は昭和三六年五月頃から製造に着手したとし、甲第一〇号証の四、同号証の九を援用するが、右各証拠は、仮にその成立が認められたとしても、既に認定した事実関係に照らし信用できない。

八 以上のとおり、出品機は本件発明とその構成を同じくし、これが前記二に認定した発表会において発表された以上、右発表により、本件発明はその出願前に公然知られるに至つたものと認めざるを得ない。そうであれば、本件発明は特許法二九条一項一号に該当するから、これに対する特許か同法一二三条一項一号により無効であるとした審決の判断に誤りはない。

九 よつて、原告主張の取消事由は理由がないから、本訴請求を失当として棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

選別多孔板とこれを載着した載置筐とを一体に形成し、両者を同時に、選別多孔板の傾斜角度より大きい角度をもつて斜方向に往復運動せしめ、載置筐内に位置させた風車は上記運動と関係無く定位置に旋廻するように成した選穀機における選別板および載置筐一体駆動装置。